【背景】環境中に含まれている重金属は、ヒトの骨代謝に大きな影響を与えてきた。カドミウムが原因であるイタイイタイ病はその一例である。また、環境ホルモンとして知られる内分泌撹乱物質は、奇形を引き起こし、脊椎動物の骨代謝にも影響を与えている可能性が高い。そこで、これら2つの環境汚染物質の骨代謝に及ぼす影響を調べるため、本年度はウロコの特徴を生かしてこれらのバイオアッセイ系を開発し、骨代謝に及ぼすこれらの物質の作用を調べた。 【研究成果】 1)魚類のウロコはヒトの脊椎骨を薄く輪切りにしたような物であり、破骨及び骨芽細胞の両方の細胞が共存していることから、ウロコのアッセイ系を開発した。(1)重金属のカドミウム及び環境ホルモンとして知られているビスフェノールA(BPA)を培地に添加し、ウロコを培養した。(2)培養後、ウロコの酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(TRACP)及びアルカリフォスファターゼ(ALP)をそれぞれ破骨細胞及び骨芽細胞のマーカーとして用いた。 2)このアッセイ系を用いると、カドミウムはTRACP活性を阻害し、短時間(培養6時間)で非常に高感度(10^<-13>M)で検出できた。なお、通常重金属の検出に用いられる原子吸光分光度計の検出限界は10^<-10>Mであり、この系の方が高感度である。ALPは6時間の培養では変化しないことから、今後、長時間の培養を行う予定である。 3)BPAはTRACP及びALP活性を抑え、その濃度も特異的で10^<-5>Mで起こった。女性ホルモンとして知られているエストロゲンがこれらの活性を上昇させたことから、BPAは骨細胞に毒性を示したと考えられる。さらに、そのメカニズムを調べるため、骨芽細胞の増殖や分化に関与するインシュリン様増殖因子1の発現をPCRで解析すると、BPAによりその発現が減少していることが判明した。したがって、ウロコで発現している遺伝子の発現を抑えることにより、BPAは骨細胞に悪影響を与えていることがわかった。
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