研究概要 |
昆虫にとって触角(アンテナ)は物理化学的環境を知るための重要なプローブとして機能するが、匂いや動きなどの特徴がない物体の知覚には個体自らが積極的に環境にはたらきかけることが必要である.この知覚過程、すなわちアクティプ・センシングについて、ゴキブリのアンテナ触覚系を実験モデルとして探ることが本研究の目的である,以下に今年度の研究計画3点の進行状況と成果を示す. 1.行動実験:アンテナ運動の三次元画像解析により、その様式に数種のレパートリがあることが分かった.水平・垂直両方向のアンテナ運動について左右アンテナで相関を調べ以下の知見を得た.1)停止状態のナイーブな動物では、水平方向運動のみが左右アンテナ間で有意な相関を示した.2)探索歩行中のナイーブな動物では、水平方向に加え垂直方向運動も左右アンテナ間で有意な相関を示し、さらに一方のアンテナの水平-垂直運動間でも相関が停止時と比べて増大した.3)接触刺激を一旦与えられた動物の左右アンテナは、規則的ループ・パターン運動を持続的に示し、片側の水平-垂直運動間において高い相関を示した.以上の結果は左右一対のアンテナを駆動する水平および垂直運動系の協調の程度が動物のモチベーションにより変化することを示す. 2.形態学:アンテナの接触感覚を担う鞭節機械感覚子とアンテナ位置感覚に関わる毛板感覚子の中枢投射、およびアンテナ運動ニューロンの形態的同定については、毛板のみで予備的結果が得られた.すなわち毛板感覚子の軸索はまず同側中大脳背側部へ伸び、ここで細かい分枝を出し、さらに少なくとも食道下神経節まで至る. 3.電気生理学:テザード条件下でアンテナ機械感覚運動中枢からニューロン活動を記録する実験については未着手である.現在、シリコン微細加工技術を用いてゴキブリ脳にフィットする埋込み型多点電極を作製中であり、来年度早期よりの実施を目指す.
|