ユノハナガニは、熱水噴出孔という極限環境にのみ生息する特異な短尾類であり、これまでインド洋、大西洋、太平洋から11種が報告されている。しかし、それらの系統関係や遺伝的多様性についてはほとんど知られていない。本研究では、ユノハナガニ類の系統解析を行い、生物地理学的検討を行うことを目的としている。 平成14年度は、ユノハナガニ科Austinograea属4種のCOI遺伝子の約680bpの配列を決定した。サンプルは、伊豆・小笠原諸島海域の明神海丘、水曜海山、海形海山、日光海山、第二春日海山の5地点より採集したA. yunohana、中部西太平洋マリアナ背弧海盆より採集したA. williamsi、南部西太平洋マヌス背弧海盆海盆より採集したA. alayseae、インド洋中央海嶺より採集したA. rodriguezensisを使用した。系統解析の結果、これら4種はすべて単系統群になった。5地点より採集したA. yunohanaも一つのcladeを形成した。北緯31度の明神海丘から北緯21度の第二春日海山までは、距離が1000km以上も離れているにもかかわらず地域変異はみられなかった。種間で比較すると、A. rodriguezensisとA. alayseaeがもっとも近縁で、次いでA. williamsiが、もっとも離れていたのがA. yunohanaであった。これは、地理的にもっとも離れているインド洋とマヌス背弧海盆のものが近縁で、地理的にもっとも近いにもかかわらず、マリアナ背弧海盆と伊豆・小笠原諸島海域のものが遺伝的に離れているという結果となった。また、西太平洋で比較すると、北部西太平洋から南部へと種が分化したことを示唆しており、これは他の熱水性生物(二枚貝類やフジツボ類)の系統解析の結果と反している。平成15年度以降もさらにデータを蓄積し、ユノハナガニ類の生物地理学的検討を行う予定である。
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