ユノハナガニ科短尾類は、太平洋、インド洋、大西洋の深海熱水域から5属13種が報告されている。生態学的分類学的にも特異な短尾類であるが、その遺伝的変異に関する情報はほとんどなく、種分化や系統関係は不明である。本年は、2004年11月に行ったケルマディック島弧熱水域における調査により新たに、新種のAustinograea属ゴノハナガニが採集された。本研究では、この種類も含め、東〜西太平洋〜インド洋〜大西洋に分布する3属7種のユノハナガニ科短尾類の遺伝的変異明らかにするとともに、他科の短尾類とも比較検討した。 用いた試料は、西太平洋のAustinograea yunohana(伊豆・小笠原諸島海域)5地点、A.williamsi(マリアナ舟状海盆)、A.alayseae(ラウ海盆、マヌス海盆)、A.rodriguezensis(インド洋中央海嶺)各1地点、Segonzacia mesatlantica(大西洋中央海嶺)4地点、Bythograe thermydron(東太平洋中央海膨)から得た個体のCOI遺伝子約660bpおよび16SrRNA遺伝子約450bpを分析した。また、他科と比較するために、アサヒガニ科、オオエンコウガニ科、エンコウガニ科、オウギガニ科、ワタリガニ科、イワガニ科を用いた。 その結果、ユノハナガニ類は単系統群を形成し、今回比較した他科のカニ類とは遺伝的に大きく異なっていた。また、Austinograea属、Segonzacia属、Bythograea属とも単系統群を形成し、それぞれの種も同様に単系統であったが、種内での地域変異は明らかではなかった。種間でみるとA.alayseaeとA.williamsiは、7種の中ではもっとも近縁であった。次いで、地理的距離が直線で7000km以上も離れているA.rodriguezensisが近縁であった。また、地理的に6000km以上も離れているA.yunohanaとケルマディック島弧産のAustinograea sp.が近縁であった。A.yunohanaはA.williamsiの分布域と400km程度しか離れていないにも関わらず、Austinograea属の中ではかなり遺伝的に離れていた。当初、西太平洋のユノハナガニは北から南へと種分化、伝播した可能性が示唆されたが、これらの結果から単に直線的でないことが示唆された。
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