精神的負担時の心拍変動解析におけるウェーブレット(wavelet)解析の有効性を確かめるため、予備実験として睡眠時の心拍変動を測定し解析した。その結果、各睡眠段階と心拍変動のLF成分の変化との対応がみとめられ睡眠脳波の測定ができない状況でも、より測定が簡便な心電図からある程度の睡眠段階の推定が可能であることが示唆された。しかしながら、従来の窓フーリエ解析等の時間周波数解析方法と比較して、ウェーブレット解析の顕著なアドバンテージはみとめられなかった。 一方、異なる基底の自律神経活動水準の様態を得るために用いた受動的体位変換試験に関して、そのときの血行力学的反応パターンを、インピーダンスカーディオグラムから心拍出量を測定し評価したが、使用するテープ電極の取り付け方の若干の差が、精神負荷の影響よりも大きな変位を生み出すことから、精神的負担の評価においてはこの測定法の更なる改良が示唆された。 同じく、血行力学的反応パターンからの考察を加えるべく交感神経活動の指標として心電図とインピーダンスカーディオグラムから得られる前駆出期(pre-ejection period : PEP)を測定した。この指標に関しては、精度の向上をはかるために心音図の測定も併用したが、これに関しては、来年度の実験予定である水浸時においても精度良く測定できることが明らかとなり来年度以降の実験に見とおしがついた。 最後に、本年度の実験で得られたすべての心拍変動に関する知見から、一貫して、心拍変動には個人差が大きく、個人内変動と個人間変動とをわけて考察する必要性が示唆された。
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