霊長類の長骨骨端部の形態特徴は、その運動適応や化石種の運動復元を行う上で重要な情報と考えられている。本研究では、真猿亜目狭鼻猿下目における橈骨遠位部に着目し、骨断面外部形状の定量化分析を行い、橈骨骨端部の形態決定に係わる一要因の分析を行った。 近縁なマカク属3種、ニホンザル、カニクイザル、アカゲザルを対象に、遠位橈尺関節レベルでの断面形状の定量的比較分析を行った。これらのマカク類は地上運動の頻度に違いがあることが知られている。外部輪郭形状をCT画像から抽出し、それを極座標変換した後、変曲点として現れる輪郭上の5つの特徴点を抽出した。解剖による筋腱の除去前と除去後での合成CTイメージから、これらのランドマークは個体間、種間のいずれにおいても、筋付着や腱溝など相同な解剖学的特徴とよく一致することが示された。これらのランドマークにより、輪郭形状を5つの部位に分割し、そのサイズの比を各部位に近接する筋や腱の発達の指標として比較分析を行った。分析の結果、アカゲザルが他種よりも相対的に大きな長母指外転筋を持ち、逆に長・短橈側手根伸筋が小さいことが示された。アカゲザルでは手根関節が歩行時に強く内転しているが、この結果はそうした姿勢に関連する筋活動のパターンと一致する。また、カニクイザルは他種に比べ、相対的に尺骨切痕が小さく屈筋群が大きいことが示された。カニクイザルは、三種の中では相対的に樹上生活者であり、強い把握力に関連して屈筋が発達し、大きな関節運動域を持つために関節面が小さいと考えられる。本研究の結果は、こうした分析方法が、化石種の行動様式の推測に有効であることを示している。
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