本研究では、歩行様式の異なる近縁な3種のマカクザル(樹上性のカニクイザル、半地上性のニホンザル、地上傾向の強いアカゲザル)を対象に橈骨遠位端・断面形状の定量比較分析を施した。下橈尺関節部位で180個体分をpQCT(末梢部定量的X線断層撮影装置)で撮像し、得られたデータから断面外輪郭形状を抽出後、極座標化によって変曲点として現れる5つの特異点を決定した。解剖による筋腱の除去前と除去後の合成CTイメージから、この特異点によって分けられる各部分は、骨周囲の各筋や各腱の大きさと一致することが示された。5つの特異点によって分割される相対的外輪郭長を、骨周囲に接する筋や腱の発達指標として種間比較を施した。分析結果:1.半地上性のニホンザルは、ほかの2種のおおよそ中間的な特徴を示した。つまり、比較的小さい長母指外転筋と大きい長・短橈側手根伸筋を持ち、かつ、アカゲザルに似て尺骨切痕が比較的大きく、屈筋面がほか2種の中間サイズである。2.地上傾向の強いアカゲザルは比較的大きな長母指外転筋と小さな長・短橈側手根伸筋をもち、なおかつ、尺骨切痕が比較的大きく屈筋面が相対的に小さい。3.樹上性のカニクイザルにおける長母指外転筋と長・短橈側手根伸筋はニホンザルの特徴と似ているが、尺骨切痕は相対的に小さく、屈筋面はほかの2種に比べ比較的大きい。考察:アカゲザルでは手根関節が歩行時に強く内転する姿勢に関連する筋の活動パターンと筋・腱発達指標による分析結果が一致し、また、カニクイザルは他種に比べ相対的に樹上生活者ゆえに、強い把握力に関連して屈筋が発達し、大きな関節運動域獲得のために関節面が小さいと考えられる。さらに、半地上性のニホンザルは他2種の中間的な特徴を見事に示したのである。本研究の結果は、本分析方法により化石種の行動様式復元に非常に有効であることを示している。
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