類人猿段階の大腿骨が、どのような荷重条件に晒されたために、どのような形状の変化をたどって、直立二足歩行に適応したヒト様の大腿骨に進化したのか?本研究は、そのダイナミックな形態進化を、有限要素法を応用した数値解析法を用いてコンピューター上でシミュレーションしようとするものである。このためには次の三つのステップが必要である。1.ヒトおよび類人猿(チンパンジーを使用)の大腿骨形状の3次元的な定量化。2.ヒトおよびチンパンジーの3次元有限要素モデルの構築。3.有限要素解析に、骨増加骨減少アルゴリズムを付加した数値計算実験。 平成14年度には、1および2の作業を行った。 1.ヒトおよびチンパンジーの大腿骨形状の3次元的な定量化 ヒトおよびチンパンジーの晒した大腿骨をスパイラルCT装置を用いて撮像した。骨の全長にわたり作成した連続CT画像から、3次元形状データを構築した。二種の大腿骨形状を比較するために、共通の座標系を設定する必要があるが、これには、骨の質量分布に基づく主軸座標系を採用した。この座標系の下で、二種の大腿骨の断面形状と湾曲を定量化した。この結果、ヒトの大腿骨は、チンパンジーのそれと比較して、近位部では外側方向に大きく湾曲していた。また、骨幹中央部では、前後方向の曲げに対する大きな強度を有する断面形状を持っていることが明らかになった。これらの結果は、他の霊長類種のデータと併せて、一つの論文にまとめて投稿中である。 2.ヒトおよびチンパンジーの3次元有限要素モデルの構築 1において構築したヒトおよびチンパンジーの大腿骨の3次元形状データを利用して、3次元有限要素モデルを作成している。モデルの単純化のために、皮質骨、海綿骨をそれぞれ一様な力学特性を有する材質と仮定した。有限要素モデルの構築には、1で設定した座標系にオルソゴナルな1mm立方のボクセルエレメントを使用している。この作業は、現在半分程度終了し、継続中である。
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