研究概要 |
本研究は,レーザーのような「コヒーレント光放出素子」を,無機化合物半導体ではなく,有機半導体を材料として用いて実現することを目標とする。具体的には,超伝導状態の有機単結晶薄膜内におけるコヒーレントな電子/正孔各クーパー対の再結合による自然放射,「超放射」を利用してコヒーレント光放出を行う,というものである。 本研究では有機薄膜への電子・ホールの両電荷を注入し,超伝導状態で再結合させることによって超放射を実現することを目指しているが,そのための電荷注入方法として有機電界効果トランジスタ(FET)を形成する必要がある。本年度はこの有機FETの低電圧動作,及び高効率な電荷注入を実現することを目指し,ゲート絶縁体に高誘電率酸化膜を有する有機FETの形成を試みた。 その結果,電解質溶液中,特にヨウ化カリウムの希薄水溶液中で金属Ta板を陽極酸化することによって,表面にバルク酸化物と同程度の誘電率を有する低欠陥かつ低不純物な酸化皮膜を形成することに成功した。この酸化皮膜をボトムゲートとし,その上にペンタセン薄膜を成長して形成した有機FETは,数V程度のゲート電圧で動作が確認されており,従来のSi酸化膜上の有機FETと比較して遥かに低電圧で動作することが実証された。 また本年度は上記実験と平行して,超高真空下で作製した有機薄膜の光物性をin-situで測定するシステムの作製も行った。本装置では,超高真空下,-100℃程度の低温状態で,試料薄膜の蛍光スペクトル,ラマンスペクトル,あるいは反射スペクトルの測定を可視光領域で行うことが可能である。
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