AlN、GaN、InNなどの窒化物半導体は、主にSiCやサファイア基板上のヘテロエピタキシーにより形成され、短波長発光デバイスや電子デバイスへの応用が検討されている。しかしながら、基板と成長層との大きな格子不整合のため、加工基板を用いた転位低減化技術をもってしても、実用に耐え得る10^3cm^<-2>以下の転位密度を実現するまでには至っていない。 一方で、III-V族半導体/Si構造も大きな格子不整合により実現が困難とされていた。しかしながら、化合物半導体に窒素を添加したIII-V-N半導体により、Si基板上への格子整合系ヘテロエピタキシーが可能となった。そこで本研究では、III-V-N化合物半導体/Si構造の実績を踏まえ、窒化物半導体のヘテロエピタキシーに格子整合条件を適用し、無転位の窒化物半導体層を実現することを究極的な目標とした。 第一に、窒化物半導体の一つであるAlNとの格子不整合度が比較的小さいSiCを基板として採用し、SiC微傾斜基板の利用について検討を進めた。化学的に安定なSiC基板表面を原子レベルで平坦化するために、高温水素エッチングによる前処理を行った。その結果、1600℃以上の前処理温度にて、[1-100]および[11-20]方向に微傾斜した6H-SiC基板表面に、それぞれ6分子層、3分子層の高さをもつ均一なステップ構造を形成することに成功した。次に、成長温度800℃以上の分子線エピタキシー法(MBE)において、AlN成長層の平坦性とV/III比の関係を明らかにした。その結果、原子レベルで平坦なAlN成長層を形成することに成功した。さらに、AlとNを交互に供給するMEE法についても検討し、最適な原料供給サイクルを明らかにし、基板と同程度の結晶性をもつAlN成長層の形成に成功した。
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