研究概要 |
有機分子を供給した半導体表面の研究を始めるにあたり,市販の高速パルスバルブを利用した有機分子ガス導入装置の作製を行った.この装置により,蒸気圧のそれほど高くない物質であっても,純度の極めて高い有機分子ガスを試料表面極近傍に噴射することが可能となった.噴射量を精密に制御できるようになったことだけでなく,装置部品等を腐食する可能性のあるガスであっても,必要最低限度の使用量に抑えることで研究に使用できるようになった利点も大きい. この装置を用い,窒素原子を含む環状芳香族化合物であるピロールをSi(001)-2x1表面に供給し,ピロール中の窒素原子が明瞭な光電子回折パターンを有するのに対し,炭素はほとんど異方性が無いことが分かった.このことは,窒素は基板のシリコン原子と直接結合しており,吸着分子はシリコン-窒素結合を軸として回転運動をしているためであると考えられる. また,硫黄原子を含む環状芳香族化合物であるチオフェンをSi(001)-2x1表面に供給し,シンクロトロン放射光を用いた高分解能光電子分光によりS 2p内殼準位の変化を調べた.励起光に270eVの光を用いた場合,硫黄には2種類の異なる状態が存在し,時間とともに成分比が非可逆的に変化することが分かった.また,それぞれの成分の光電子回折パターンを取得した結果,いずれも成分も異方性が見られ,基板に配向した硫黄であることが判明した.現在,この結果について,多重散乱を考慮した光電子回折シミュレーションを用いて詳しく調べている.
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