本研究では、自己組織的手法によって磁性ナノドットを数十nmの間隔で高密度に形成する適切な材料および作製条件を探索すると共に、10nm程度のドットの磁化を、隣接ドットの磁化は乱すことなく、検出・制御する手法の確立を目指している。具体的には、走査トンネル顕微鏡(STM)を利用し、スピン偏極電子を探針から磁性ドットへトンネル注入することでドットの磁化制御を試みる。スピン偏極電子をトンネル注入するには、STM探針が磁性材料から構成される必要がある。その一方で、探針から生ずる巨視的磁場がドットの磁化方向を乱すことは避けなければならない。以上2つの要請を両立するため、非磁性のタングステン探針に磁性物質を数-十数原子層だけ蒸着した探針を用いる方式を採ることとした。昨年度は、探針先端を2300K以上に加熱できる加熱機構を作製/導入した。更に、蒸着材料としてFe、Co、及びCrを備えた蒸着装置を作製し、蒸着中の真空度の劣化を5×10-10 Torr以下に抑制できることを確認した。以上を踏まえて平成15年度は次のことを行った。(1)磁化探針の性能評価の標準試料として、Cr(001)の薄膜をMgO基板上に作製した。清浄なCr(001)表面は単原子層ステップを跨ぐごとにテラスの磁化方向が反転する層状反強磁性表面であることが知られている。作製した薄膜に清浄Cr(001)表面に特徴的な表面準位が観察されることを確認した。ただし現状では、蒸着中に取り込まれる微量の不純物炭素のため、所望の1x1ではない複雑な長周期構造を表面の一部が呈している。尚一層の清浄化を図るため、蒸着装置の脱ガスを徹底するとともにイオン衝撃加熱設備の導入を予定している。(2)GaA(001)を磁性微細構造作製の基板として利用するには、通常よりも低い成長温度に設定する必要がある。こうした特殊な成長条件化における表面のラフニングが成長開始前の表面構造に強く依存していることを明らかにした。(3)スピン偏極率が100%であると理論計算から予言されている閃亜鉛鉱型MnAsをGaAs(001)基板上に作製することを目指して、初期成長過程の観察を行い、その構造モデルを提示した。
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