1年目に引き続き、英国(Daresbury Lab.)と米国(ALS)および分子研UVSOR(岡崎)において放射光を利用した光電子分光実験を行った。具体的には、基板の初期再結合条件の依存性、基板のステップ面の角度(=傾きの角度)の依存性を調べた。一連の研究成果は既に発表した。その後の展開として、アルカリメタル(或いはその酸化物)をGaAs基板上に蒸着することによる、安定した負の電子親和力を持つ機能性表面の作製と光電子分光法を用いた内核電子状態の測定、およびフェルミ面近傍の分散の観察をALSと分子研で行った。また同時に、負の電子親和力を持つ半導体表面に鉄を蒸着した系での表面電子状態の光電子分光測定、蒸着物質がクロム、およびコバルトの場合の同様の測定、クロムの場合の二光子励起効果の測定、量子ドット封じ込め表面の電子状態の測定、および上記全ての場合での表面保護膜の有効性の評価を行った。本学ラボベースMBEで成長させた薄膜にヒ素キャップを施した試料を、放射光施設である分子科学研究所極端紫外光施設で測定したところ、鉄を載せた場合に膜厚を大きくしていっても表面の仕事関数はほとんど変化せず、負の電子親和力は減少していく事が確認された。しかし、膜厚を大きくした場合でも負の電子親和力自身は失われないことを初めて見いだした。また、ALSで行ったバンド分散の測定では、極めて明瞭なバンドマッピングをすることに成功した。これらは内核電子状態の研究と表面観察の結果とあわせて近く開かれる国際会議(VUV14)で発表の予定である。InAsドット系については、GaAsをキャップした場合のエネルギー状態の変化をつかまえようという試みであったが、In4d内核ピークを観察、同スペクトルの分離ができた。これは、次なるウェッティングレーヤーとの比較、厚さ依存の影響等の研究につながるものと期待される。すぐにアクセスできる装置が無いため懸案事項となっていたスピン分解に関しては、英国でのビームタイム取得を目指しつつ、近く佐賀大で立ち上がる予定の装置で取り組む。
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