本課題は、共鳴波長域でもフェムト秒の全光スイッチング時間を実現するために、縮退励起状態間のコヒーレンス緩和に伴う偏光解消を用いることを提案し、これを実証することを目的とする。実施期間内に、二重または三重縮退励起状態を持つ材料系で適当なコヒーレンス緩和時間を持つものを探索し、光誘起異方性により動作する光カー(Kerr)ゲート型スイッチを構成して、フェムト秒スイッチング動作の確認を目指す。 本年度は、偏光依存電場変調分光法により材料の探査を行なうとともに、偏光依存サブピコ秒分光測定系の構築を行なった。有機系材料としては、複数のRu錯体ユニットが剛直なп共役分子ワイヤで結合したデンドリマーについて、分子構造と次元性(励起状態が何重縮退しているか)の関係を検討した。剛直なп共役系で結合されていることにより共役が分子全体に広がり、分子設計により次元性(縮退度)を制御できることが期待されたためである。しかし、電場変調応答の異方性は、Ru錯体ユニットが二次元的な場合には一次元的異方性を示したものの、Ru錯体ユニットが一次元的な場合にはп共役系の構造によらず一次元的異方性を示すことが明らかとなった。これは、共役鎖が複数のRu錯体ユニットの励起状態を相関させるには至っていないことを示唆するものであり、本研究の目的にはこのような有機化合物はあまり適していないことを意味する。一方半導体系材料としては、CdSeコロイダルナノ微粒子の検討を行なった。この材料は、ほぼ球対称な形状とバルク結晶の一軸異方性のため、二重縮退励起状態をもつ量子ドット系となることが期待できる。次元性を偏光依存電場変調分光法により検討したところ、異方性は粒子径に依存して変化するものの、二次元系に近い応答を示し、有望な材料であることが明らかとなった。
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