本課題は、共鳴波長域でもフェムト秒の全光スイッチング時間を実現するために、縮退励起状態間のコヒーレンス緩和に伴う偏光解消を用いることを提案し、これを実証することを目的とする。実施期間内に、二重または三重縮退励起状態を持つ材料系で適当なコヒーレンス緩和時間を持つものを探索し、光誘起異方性により動作する光カー(Kerr)ゲート型スイッチを構成して、フェムト秒スイッチング動作の確認を目指して研究を行ってきた。 本年度は、フェムト秒波長可変レーザを用いたポンププローブ分光測定系を構築するとともに、4回対称性の分子構造をもち励起状態が二重縮退している金属フタロシアニンの一種である可溶性亜鉛フタロシアニン誘導体について、光カーゲート型スイッチング動作の確認を行った。まず、フェムト秒ポンププローブ過渡吸収分光法および時間分解蛍光分光法により励起状態ダイナミクスの評価を行い、Qバンド励起状態がナノ秒オーダのエネルギー緩和時間を示すことを確認した。さらに、光カーゲート型スイッチ構成でスイッチング動作を確認し、スイッチOn時間が500fs程度と材料のエネノレギー緩和より3桁以上高速であることを見いだした。これにより、二重縮退励起状態間のコヒーレンス緩和を用いることによりエネルギー緩和時間に制約されない高速の全光スイッチングを実現するという提案を実証し、分子構造の高い対称性による多重縮退励起状態の光スィッチングにおける有用性を明らかにした。このように、本課題は所期の目的を達成することができたと考える。
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