実世界のカオスに影響を与える「ダイナミカルノイズ」は「観測ノイズ」と比べて、系に本質的であるにも拘わらずこれまで十分には解析されてはいなかった。原因はその複雑なメカニズムにあったが、本研究ではこれまで「ダイナミカルノイズ」の影響は系の幾何学的性質を表す直交基底ベクトルや特異値の時間的なゆらぎに現れるものとして評価を行い、一定の成果を得てきた。そこで、今回は特に特異値のゆらぎの定量化が試みられた。特異値のゆらぎの分布がガウス分布とみなし得ることに着目しその分布の半値幅を用いる方法や、特異値のゆらぎの相関係数や正規化平均自乗誤差を指標として導入することにより、特異値のゆらぎの定量的評価が可能となることを示した。 次に、カオス結合系を対象として、ダイナミカルノイズが結合系全体に与える影響を調べた。1次元反応拡散系としてのカオス結合モデルを用いてダイナミカルノイズを与えた。CMLでは欠陥ブラウン運動領域、GCMでは非同期相領域に相当するパラメータ領域において特に、拡散速度が大きい条件であるにもかかわらず、ダイナミカルノイズを加えることに依り、却って拡散の複雑挙動が抑えられる場合のあることがわかった。こうして、ある特定の条件下でのダイナミカルノイズとカオス力学系での時空パターンとの間の関係を導き出すことができた。ただ、これまでに得られた成果は、カオス結合系のほんの一部の結果でしかない。よって、今後もより詳細なダイナミカルノイズのカオス結合系への影響を調べる必要があるが、その成果が、神経回路網等の複雑システムの解明へと繋がることが期待される。
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