研究概要 |
身体運動の軸機関および支持機関である脊椎の疾患に対する診断において,疾患により生じた身体不安定性の程度を把握することは,適切な治療方針・手術手技を決定する上で極めて重要である。しかし,脊椎損傷と不安定性の関係を系統的に調査した報告はほとんど無く,脊椎不安定性を一定の基準をもって,客観的・定量的に評価する手法も未だ確立されていない.そのため,現在は個々の医師の経験や感覚に依存した主観的・定性的診断が行われており,医療現場において患者が平等な治療を受けることは困難な状況である.このような背景から本研究では,脊椎不安定性を力学的観点より定量的に評価するとともに,実際の手術現場において脊椎不安定性の程度を正確かつ簡便に評価し得る測定器の開発を目的とする.この目的を達成するため,平成14年度は,模擬脊椎およびイノシシの屍体脊椎を用いて,前屈,後屈,側屈および回旋運動を想定した荷重を負荷するための実験システムの構築を行った.その結果,これらの荷重に対する脊椎の変形挙動を定量的に評価し得る試験機を製作することができた.平成15年度以降は,この試験機を用い,種々の疾患・損傷をモデル化したヒト屍体脊椎における脊椎不安定性の力学的・定量的評価を試みる予定である.また,実際の手術現場で適用可能な脊椎不安定測定器の開発に関しては,既存の手術器具である止血鉗子等を改良し,脊椎の棘突起間に荷重を加えた際の反力-変位関係を評価し得る脊椎不安定性測定器の開発を試みた.開発した測定器は,現在,共同研究者である整形外科医の協力の下で,臨床応用が進められている.今後,この臨床応用の際に明らかとなった不具合等を改良し,開発した脊椎不安定性測定器の臨床有用性をさらに高めていく予定である.
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