研究概要 |
高分子材料は一般に"壊れやすい材料"との認識が強い.高分子材料は金属結合とは異なり高分子の共有結合で構成されている.分子鎖(共有結合)の切断を材料の崩壊として考えると理論上は高強度になるが,実際には分子鎖の切断よりも分子鎖が引抜かれることにより力学強度が大幅に低下する.金属材料の劣化はほぼ体系化されており,信頼性の高い材料として主要工業材料に用いられている.一方,高分子材料の劣化は,マクロ的にみると分子の集合体であり金属材料と同様であるが,ミクロ的には共有結合の分子鎖で組成されているため,必ずしも金属材料の劣化と同様とはいえない.このことから,金属材料に倣った材料評価試験の結果からでは予期し得ない破壊が生じてしまうことがある.また劣化は,分子鎖の状態に大きく影響しているが,分子鎖の集合体の構造の変化や分子量の増減が多様であり,また,劣化経路(劣化環境)によっても異なるため一様に評価することが非常に難しい. 本研究では高分子材料を構成する高分子鎖に着目し,これらの状態を診断することで,材料の劣化の状態とそれまでに至る劣化経路を評価することを目的とした. H14年度はレオメーターを用いた絡み合い状態の解析と,ESRを用いた分子鎖の切断の状態の観察を主に行った.その結果,従来測定が難しいといわれていた,ESRを用いて高分子材料のラジカルの測定法を確立し,劣化とラジカル発生の関係を明らかにした.また,レオメーターを用いた分子量測定および粘弾性挙動解析の結果から高分子材料の力学的性質の低下と化学的劣化との関係を明らかにすることができた.
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