新たな水素吸蔵物質として注目されている単層カーボンナノチューブの合成には、化学的気相合成法を用いることが最も有効な手法の一つと考えられているが、この合成法によるチューブには欠陥が多い。そこで本研究では、この合成反応場に、高い熱的・化学的非平衡性を有する高周波交流(RF)放電プラズマを導入し、さらに、この放電をパルス変調することによって、プラズマの生成・消滅時の過渡現象を積極的に反応に利用する方法を提案した。これによって、欠陥の少ない高水素吸蔵性カーボンナノチューブを多量に合成できることが期待できる。2年目の本研究では、1年目に引き続き、原料ガスとして用いたアセチレンと水素の混合ガス中における容量結合型パルス変調RF放電の特性、特にヘリウムを原料ガス中に混合した場合の特性を調査し、カーボンナノチューブ合成に向けた有効性について検討を行った。 ヘリウムを原料ガス中に混合することで、高いガス圧(全圧)、結果的には高い原料ガス分圧でも放電が発生・維持できるプラズマ状態が実現された。そして、パルス変調を行う効果によって、全圧が高くなることによる放電発生後の急激な電流の増加はなくなり、安定した放電の形成や、放電の制御性が良くなることが明らかになった。また、パルス周波数を高くすることで、放電の持続・休止期間の影響により、放電が発生・維持されにくい状態になることが明らかになった。この結果は、荷電粒子の発生と損失の時定数により決定されていると予測され、パルス周波数、さらにはデューティー比の適切な設定により、反応空間中に存在する荷電粒子やこの存在に起因するラジカルの種類や量を、制御することが可能であることを示唆するものである。 また、本研究における放電プラズマ発生技術は、流動層方式を用いた大気圧放電によるオゾン生成にも用いられ、高効率・高濃度でのオゾン生成を可能にした。
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