超伝導磁石を超流動ヘリウムやヘリウムIで冷却する場合、ワイヤーモーションや交流損失による発熱によって、冷却流路は超流動ヘリウム、ヘリウムI、ヘリウムガスの三相(またはヘリウムIとヘリウムガスの二相)が混在した状態となる。このときの流路内の熱輸送のメカニズムは非常に複雑で、これを明らかにすることは超伝導磁石の冷却安定性を議論する上で非常に有益である。本研究においては、超流動ヘリウムと過冷却ヘリウムによる冷却実験について数値解析を行い、超伝導磁石の冷却流路内の熱輸送特性を明らかにした。以下に平成16年度の成果をまとめる。 超流動ヘリウム:昨年度までに実験を実施した流路モデルを対象に数値解析を行った。本数値解析は昨年度から引き続き行われており、本年度で全ての流路モデルに対する数値解析が完了した。流路モデルは4種類である。用いた数値解析手法は超流動ヘリウムの二流体モデルの式を基礎式とした二次元有限差分法である。パラメータは温度と熱流束とした。'数値解析結果は実験結果をよく表しており、実験では計測が困難である流路内の温度・流速分布が詳細に把握できた。また前川らの実験結果との比較から、二次元数値解析で三次元の熱輸送特性も記述できることがわかった。本研究成果は現在発表準備中である。 過冷却ヘリウム:これまで進めてきた三相が共存する体系の数値解析の一部を利用して、二相が共存する大規模な体系の数値解析を試みた。対象とした流路は、今川らの過冷却R&Dコイルの冷却流路である。用いた数値解析手法はコイルr-θ平面での二次元有限要素法である。入口の温度・流速をパラメータとし、常伝導伝播を模擬した発熱をコイル最内層で加えた。この結果、熱輸送は対流が支配的であるが、自然対流は時定数が長いため入口の流速が重要であることがわかった。さらに本形状に超流動ヘリウム冷却を適用した場合の数値解析を行った結果、熱輸送特性は飛躍的に向上することがわかった。本研究の成果はIEEE Transactions on Applied Superconductivityに"Thermal-hydraulic Characteristics of Superconducting Coil Cooled by Subcooled He I"という題目で掲載されている。
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