研究概要 |
従来の補聴器に関してDSPを用いたものが多種開発されてきているが、聞こえの度合いは個人差が大きく、個々に適合させるためには専門家によるフィッティングが必要となっている。本研究では、専門家と同等の機能を実現可能な自律適応型補聴器システムの実現を試みる。これまで、人の不快な信号を評価信号とするon-line制御可能なInteractive Q-learningという新しい強化学習の手法を提案してきた。しかし、人間による評価信号の与え方は個人差が顕著であるため,従来の強化学習における報酬の仕様は,人間サイドからの複雑挙動を示すような報酬の提示を前提とする本課題の場合,これでは十分に対応できないことが明らかになった.入力信号としての評価信号の示す複雑挙動に関しての「あいまいさ」を定義し,階層構造のアーキテクチャにおいて,上位構造レべルから下位構造レベルへの流れるトップダウン情報量と,逆にボトムアップ情報量のある中間階層レベルでの差集合でこれを計量する手法を提案した。具体的には、各階層がエージェントからなる3層階層型マルチエージェントシステムを問題向きにモデル化し,あいまいさに関しても空間的あいまいさと時間的なあいまいさの存在を明らかにしたうえで,階層型アーキテクチャの特徴を問題対応性,頑健性の両面から検討した。提案した階層型エージェントシステムは、評価信号にあいまいさを含まない問題、空間的にあいまさを含む問題、時間的にあいまいさを含む問題に関して、有効であることがそれぞれ確認された。本補聴器システムは人の不快感を評価信号としているため、空間的(不快の度合い)および時間的(不快と感じるタイミング)あいまいさを同時に含む問題であることを明らかにした。今後、加齢に伴う意思伝達速度の遅れの生体信号に関する定量的な基礎的データ収集を行うことにより、時間的なあいまいさの個人差の調査を行うことが重要となってくる。
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