研究概要 |
本研究は、従来型の補聴器では実現不可能な補聴器が使用者に慣れる自律適応型補聴器の開発を目的としている。ここでは、対象を老人性難聴者として、フィッティングの専門家と同等の機能を実現可能な自律適応型インタフェースを実現するための基礎的アプローチを試みた。本システムを構築するためには、1)人の快・不快の定量化、2)自律的なフィッティングシステ,ムの開発が不可欠である。1)に関して、23名の健常者に対して脳波や筋電位を測定し、五感に対する快・不快の定量化を試みた。その結果、音質や音圧の変化に対して生体信号から特徴量を抽出する可能性を確認することができた。2)に関して、人の快・不快を強化信号とするon-line制御可能なInteractive Q-learning (IQL)という新しい強化学習の手法を提案した。生体信号を用いてon-line制御を行うには、使用者が快・不快を感じてから強化信号を与えるまでの加齢や性格による時間遅れが問題となる。 人が快・不快を感じてからアクションを起こすまでの個人差を測定するために、不快を感じてからマウスをクリックする時間を20歳の男性3名(A,B,C)において、測定した。その結果、7つのタスクに対して、個人差が見られた。一人の被験者Aを基準として、他の2名不快を感じるまでの時間を比較すると、Bは平均して、Aよりも早く不快と感じ、CはAよりも遅く不快と感じていることが判明した。このことから、個人差は存在するが、各個人において、タスクによる差異は大きくないことが示唆される。このことは、個人適応するための不快を感じるまでの時間のキャリブレーションをすることで、システムが個人差を吸収できる可能性がある。しかし、同じ環境下で、長期間にわたり、繰り返し不快と感じた時に、不快を感じるまでの時間間隔に違いが出てくる可能性は否めない。今後、長期間に渡る不快実験が必要である。
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