高品質n型ダイヤモンド薄膜作製に不可欠な合成技術を確立するために、今年度は(i)高品質ノンドープダイヤモンド薄膜の高速合成、及び(ii)リンドープn型ダイヤモンド(111)薄膜合成に焦点をおいて研究を進めた。前者については、高出力マイクロ波プラズマCVD装置を用いて進めた。ダイヤモンドの伝導帯最下端は真空準位に近いため、励起された電子は結晶欠陥に大きく影響されることが予想される。従って、n型伝導を得るためには、結晶欠陥の少ない高品質ダイヤモンドである必要がある。そこで高速合成された薄膜に対して電子線やレーザ光を照射し、励起されたキャリヤの拡散長等を評価することにより、薄膜の結晶性を調べた。その結果、得られた薄膜中でのキャリヤの拡散長が10μm以上と非常に長いことが分かった。これは、高速合成されたダイヤモンド薄膜の欠陥密度が十分小さい事を示唆している。一方、後者については、今年度の実施計画に述べたように、現有設備を用い、また下地として既にn型ダイヤモンドの作製が可能である(111)基板上での作製を試みた。リンドープガスには、特殊高圧ガスに指定されていないトリメチルリンを用いた。これは、利用に際して特殊な設備が必要でない事、また危険性もいくらか少ない事等、実験室系で用いる上では利点が多いためである。フォスフィンでの作製条件に準じて合成を行うと、フォスフィンによるリンドープダイヤモンド薄膜に比べて結晶品質は同程度に高品質であるが、抵抗は3桁程度高くなった。トリメチルリンの解離度がフォスフィンのそれに比べてかなり小さいことを示唆している。合成圧力を上げプラズマを高密度化し、合成温度も上げたところ、抵抗値もフォスフィンのそれと同じ程度になった。しかしながら、結晶品質は低下したため、n型判定ができなかった。トリメチルリンを用いてn型ダイヤモンドを得るためには、薄膜の高品質化とトリメチルリンの解離を進める必要があろう。
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