本研究の目的は、室温動作が可能でSQUID相当の高磁界感度を有する高周波キャリア型薄膜磁界センサにおいて、磁気ヘッド形状での数ミクロンからサブミクロン寸法での小型化を実現することである。巻き線の無い小型磁気ヘッド構造を実現するために、強磁性膜と反強磁性膜を積層したセンサ素子を作製し、交換結合を利用した一方向異方性の導入による磁界感度向上について検討する。この際の重要なパラメータである反強磁性膜の組成、膜厚、積層化の順序、層数の最適化を行い、本構造での設計指針を確立する。さらに、この巻き線無しの小型センサ素子を読み取りヘッドとした高感度磁界計測システムを構築する。 本年度は、センサ素子への一方向異方性の導入のため、強磁性膜と反強磁性膜を積層した構造の薄膜センサ素子を作製し、導入する反強磁性膜の組成、膜厚、熱処理温度などを変化させた場合の交換結合磁界の強度について検討し、センサ素子に用いる強磁性膜との積層に最も適した材料および成膜条件を検討した。その結果、NiFe強磁性膜と積層した場合、反強磁性膜としてはNiO膜よりもFeMn膜の方が優れた軟磁性と交換結合磁界が得られることが分かった。また、センサ素子としての磁界検出特性においても、NiFe/FeMn積層膜で巻き線構造を用いることなく磁界ゼロ点への高感度領域の設定を可能にできるとともに、NiFe/NiO積層膜と比較してヒステリシスを小さくすることができた。さらに、NiFe/FeMn構造で一層あたりの強磁性膜厚および反強磁性膜厚を100nmから50nm程度に抑えたまま多層化することで、センサ出力を15倍程度に増大させることができた。これらは、センサ素子のマイクロ磁気ヘッド化の実現において極めて重要な成果である。
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