電気・電子・情報機器や産業機器などから放射される不要電磁波ノイズを抑制するためには、機器のどの部分から実際にノイズが放射されているかを特定することが重要である。本研究では、特に従来あまり研究の行われていなかった低周波(数十MHz以下)に着目し、機器周辺の電磁界ベクトル分布を測定することにより機器内部の低周波電磁波ノイズ源を特定する逆問題の解法を検討し、波源の位置及び分布を目に見えるようにする「低周波電磁波源可視化装置」を開発することを目的とする。 今年度は、主に複数の場所で観測された電磁界波形にMUSIC法を適用することにより、電気及び磁気ダイポール点波源の位置及び方向を推定する手法を検討した。従来の手法では、MUSIC評価関数を波源の位置(3次元)と方向(2次元)に対して走査する膨大な計算が必要があったが、位置の走査のみで同時に方向をも特定できる手法を開発し、計算量の削減を行った。また、位置の3次元走査点数を削減するために、粗い走査点上で求められた評価関数に補間を施すことで真の波源位置を精度良く推定することにも成功した。一方で、逆問題における推定誤差の理論的下限値を与えるCRLBを用いて、MUSIC法を位置推定に適用した際の推定誤差の検討を理論的に行い、誤差を定量的に評価した。以上の手法は、計算機シミュレーション及び実際の実験でその有効性を検証した。 今後は点波源だけでなく、線状や面状の空間的広がりを有する波源に対して、その分布を推定して可視化することを目指す。推定した波源位置及び形状は、強度や周波数に応じてカラー処理を施して画像化(可視化)し、同時に撮影した実際の機器の映像と合成してリアルタイムで「機器のどこからノイズが出ているか」が見えるようになる装置を構築する予定である。
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