今期前半は、平成14年度に行った研究である"有色ガウス雑音通信路に適した復号法の開発"の仕上げと論文執筆を中心に行った。この有色ガウス雑音通信路に適した復号アルゴリズムは、sum-product復号法が出力する一時的復号結果(暫定復号語と呼ぶ)を利用して近似通信路尤度値を計算することにより、既存のsum-product復号法を記憶ある通信路用に拡張したものとなっている。この成果は、電子情報通信学会論文誌10月号に掲載された。さらに、統計力学分野で知られている平均場近似を通信路の状態推定に利用した復号アルゴリズムを情報理論分野の国際会議であるIEEE International Symposium on Information Theoryにおいて発表した。 本プロジェクトのアプローチは、通信路モデルを復号器に内蔵し、その通信路モデルに適した推論アルゴリズム、例えば、隠れマルコフモデルに対するBCJRアルゴリズム、平均場近似などの事後確率計算アルゴリズムをsum-productアルゴリズムに組み合わせることにより、通信路特性を十分に考慮に入れた復号を可能にしようというものである。 本年度の後半からは、今までに得られたアルゴリズムを単純化した、より計算量の少ないバースト誤り通信路に適した反復復号法の開発をスタートした。そこで復号アルゴリズムの理論的検討・予備実験を行った。この予備実験で理論の妥当性をチェックした後、復号シミュレータの開発を行った。具体的には、通信路モデルと提案復号アルゴリズムをC言語で記述し作成した。シミュレーションに基づく復号器の性能評価を行った。その結果、非常に簡単化した通信路状態推定器を内蔵した反復復号法においても十分なバースト誤り訂正能力が発揮されることが明らかとなってきた。現在は、その復号アルゴリズムの改良と理論的評価の方法を模索している段階である。
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