研究概要 |
平成14年度は,OFDMシステムにおけるガードインターバル期間の振幅差を用いたシンボルタイミング同期に関する検討を行った.一般に無線通信環境では,電波が複数の経路を経て受信されるマルチパスが問題となる.マルチパス通信路では,直接到来する電波の他に障害物などによって反射された複数の遅延波が同時に受信される.そこで,OFDMではガードインターバルと呼ばれる期間をOFDMシンボルの先頭に付加することによって遅延波対策を行うのが一般的である.ガードインターバル内では,OFDMシンボルの後半部分の複製信号を送信する. ガードインターバル期間の信号は,OFDMシンボルの後半部分と同じ信号成分を持つため,高い相関を持つ.従来,ガードインターバルを用いたシンボルタイミング同期方法はこの相関値によって同期を取っていた.しかし,遅延波によって歪んでしまったガードインターバル信号との相関は一般に誤差が多く,正確な同期のためには,複数のシンボルで平均化を行う必要があった. ところが,本研究で検討した同期アルゴリズムは,信号の振幅差を用いる.通信路に対するガードインターバルの設計が適切であり,遅延波がガードインターバル内で十分に減衰しているならば,ガードインターバル終端部分の差分は,ランダム雑音の差分成分のみとなる.雑音の差分成分は信号対雑音比(SNR)が十分に高い状況では0に近似することができ,シンボル開始部分では再び大きな値をとる.したがって,この立ち上がりのエッジを検出することで,シンボル開始位置近傍において同期点を獲得可能である. SNRが低い環境では,雑音の差分は0に近似できないが,信号の差分成分全体に渡って移動平均をとることでこの影響が軽減できる.さらに,本アルゴリズムは差分を用いて検出を行うため,相関操作に比べて簡易に実現できるという利点もある.以上の方式の有効性を理論解析およびシミュレーションを用いて検証を行った.その結果,振幅差の利用という非常に簡易な構成にも関わらず,シンボルタイミングを精度よく検出できることを確認した.
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