研究概要 |
筆者らはこれまで、交互方向陰解法(ADIM)に基づく差分形時間領域ビーム伝搬法(TD-BPM)を提案してきた。しかし、従来の差分形TD-BPMでは、偏光の依存性を考慮できない問題点があった。この制限により、光回路のより正確な評価や、光回路を高機能化するための設計に支障をきたしており、TD-BPMの高性能化の要求が高まっていた。 そこで本研究では、境界条件を考慮に入れた新たな差分式をTD-BPMに適用し、偏光依存性の評価を可能にした。その際、空間の離散化には4次精度差分式を、時間の離散化には(2,2)次のパデ近似を用いた。その結果、これらの改良を施さない場合に比べ、空間で約5倍、時間で約10倍大きな刻み幅が使用でき、計算時間の大幅な短縮に寄与することを示した。デバイスの解析の一例として、導波路端面からの反射パワーと導波路グレーティングの反射スペクトラムを計算した。本手法の結果が、他の手法の結果とよく一致することを確認した。 従来のTD-BPMでは時間の2階微分を省略していたため、その適用は狭帯域解析に限られていた。2階微分を考慮できるパデ近似を用いれば、広帯域解析が可能になる。しかし、Peaceman-RachfordのADIMに基づくTD-BPMにパデ近似を適用すると、打切り誤差の増加を招き、正確な計算の行えない問題点があった。 そこで、ADIMに基づくTD-BPMの広帯域化に関する基礎検討を行った。Peaceman-RachfordのADIMに代わりDouglas-RachfordのADIMを導入することで、打切り誤差の増加を回避した。計算式に含まれる未知項を評価するために反復法を用いた。その結果、ADIMを用いない広帯域TD-BPMと同等の計算精度を、5%以下の計算時間で得られることを示した。
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