研究概要 |
今年度は量子系のユニバーサルな情報源符号化の簡単な構成をMatsumotoと共同に行った。この構成は以前にHayashi-Matsumotoが行ったものに比べかなりシンプルであるという利点を持つだけでなく、以下の設定にも応用できるという利点がある。一般に、量子情報源符号化では、ある確率に従って量子状態が発生するという仮定の下でその量子状態を送る際に必要な空間の次元を減らすことがテーマになる。しかし、その他に、エンタングルした量子状態を伝送するという問題設定も可能であり、この場合、エンタングルした量子状態の片方を保存するために必要な次元を見積もることがテーマとなる。本研究では、そのような目的のためにもここで構成した圧縮法が有効であることも示した。本研究では、情報源に仮定する確率分布が独立同一分布であったため、Markov情報源などのような場合には直接適用できない。しかし、本研究でなされた構成方法は、一般の場合につながるものであり、今後、相関のある情報源にも適用する圧縮法の構成が期待される。その他、本研究の基礎となる研究では群論的対称性が用いられた。この手法は色々な量子情報理論のテーマに適用することが期待できる。 その他、部分的にエンタングルした量子状態から完全にエンタングルした量子状態を局所操作と古典通信のみで構成する際の成功確率をMatsumoto, Koashi, Morikoshi, Winterとの共同研究で厳密に行った。このような操作はエンタングルメント集中化と呼ばれ、量子情報理論のテーマの一つである。この研究では、先行研究としてBennetteらの漸近的設定で、漸近的に失敗確率が0となる場合の研究と、Morikoshi-Koashiによる失敗確率0でどれだけの完全にエンタングルした状態が構成できるかという研究があった。これら2つの研究では、微妙に設定が異なるため、生成できる完全にエンタングルした状態の量が異なる。本研究ではこれらの2つの設定での限界の差を埋めるべく、中間的な問題設定として、失敗確率に指数拘束を課した場合を考え、この場合での生成できる完全にエンタングルした状態の量を見積もった。実用的視点を強調するのであれば、単に失敗確率が漸近的に0になる場合を考えるのではなく、それが0に収束する速さをみる必要がある。
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