本研究では2100年までを対象とした地球温暖化問題対策技術評価を目的に、全世界の区分数を82までに高めたエネルギーモデルの構築を目指している。本年度は、過去の予備的な作業に基づき、エネルギーモデルを実現するソフトウェアの作成、モデルの入力となるエネルギー関連データのデータベースの試作、高い地理的解像度に合わせたモデルパラメータの推定などを行った。なお、エネルギーモデルは線形計画問題として定式化するが、線形計画法のソルバー自体は、制約条件式がおよそ百万本にも達することから、市販の最新ソフトウェアを購入し、それを活用している。本年度の研究課題はエネルギーモデルの作成自体が中心であり、それを用いた中間段階での試算結果からは以下の知見が得られた。 1.従来型のエネルギーモデルでは本格的な評価が困難であったエネルギー輸送インフラ(ガスパイプラインや長距離送電)を明示的に考慮した地球温暖化対策を評価できるようになった。そのため例えば、長距離送電を考慮することにより、世界地域別の時差を利用した負荷平準化効果などを通して、太陽光発電の導入可能性が相対的に高まる傾向があることなどが計算結果として確認できた。 2.また、エネルギー輸送インフラを考慮した結果、石炭火力発電所と天然ガス火力発電所の経済性に関する優劣が、それぞれの燃料の生産地からの距離に依存して変化するため、従来型モデルの計算結果とは最適電源構成が大きく異なる地域もあることが確認できた。 3.再生可能エネルギーを利用した水素製造、世界地域間の水素輸送などは、太陽エネルギーが豊富な中東地域が関連する場合を除き、大規模に行われることはなかった。モデル計算の前提条件等の更なる検討が必要であるが、このことは、単なる天然ガス代替燃料としての水素の利用は、限定的なものとなる可能性を示唆している。
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