平成15年度は、本研究の目的であるバンクマシンの音響信号情報を用いた実用的な疲弊札判別システムの構築に向けて、次の2つの項目について研究を進めた。 1.紙幣の振動による紙幣音発生メカニズムの解明 2.非定常信号処理による紙幣音の特徴抽出手法の開発 項目1では、紙幣の疲弊度が振動様態に与える形響を解明するための基礎資料として、画像計測による材料力学的手法を用いた、紙幣の疲弊度の数値化とその計測法の開発を行った。少数の模擬紙幣サンプルを用いた計測実験の結果、紙幣の疲弊度は、紙幣のたわみ曲線を、片持ち梁のたわみ曲線とみなして得られる由げ剛性パラメータとして、再現性良く数値化が可能であり、その値は疲弊の度合いに対して指数関数的に減少することが明らかとなった。今回確立された紙幣の疲弊度の数値計測法により、昨年度までは3段階と主観的にしか行えなかった疲弊度の分類が客観的でしかも多段階・連続化が可能となり、選別すべき疲弊札の度合いの微調整が可能な、より実用的な疲弊識別法の開発につながるものと思われる。 また項目2では、研究代表者が提案する、音響信号のウェーブレット区間強度を特徴量に用いた識別法について、自己組織化ニューラルネットワークを用いた識別法の高信頼度化・高精度化に着手した。その結果、高信頼度化については、部分特徴ごとの識別結果を総合的に判断する手法をとることで誤識別が低減され、識別信頼度を改善できることが明らかとなった。この結果を国際会議AROB'04にて発表した。また、識別の実行にウェーブレットレベル個別LVQ法と、近傍距離を考慮した識別結果決定を用いることで、識別の高精度化が図れることが明らかとなった。これらの成果を発表するため、現在国際会議に論文を投稿中である。
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