生命科学研究に用いることを目的、マイクロ波周波数1.1GHzの電子スピン共鳴分光装置の開発を行った。動物実験における深刻な問題は感度の不足と、動物の動きによる擾乱である。本研究では、電子スピン共鳴スペクトロスコピーの高感度化を目指し、以下の研究を行った。 (1)自動マッチング制御と自動チューニング制御の相互干渉を無くすための非干渉化法を開発した。この技術は、2入力2出力のフィードバック制御系において、伝達関数行列を対角化することにより非干渉化を実現する物である。実際の回路実装では、反転増幅器の利得を調整し、二つのフィードバックループ間の干渉を補償した。マウスを用いた実験により、相互干渉がない場合に、より安定に計測がおこなえ、実験動物の動き(呼吸や心拍)に起因する雑音が抑圧できる事を実証した。その結果、信号対雑音比を改善する事ができ、高感度化に寄与することが示された。 (2)連続波電子スピン共鳴スペクトロスピーでは、磁界変調と位相検波を用いて高感度計測を行っている。磁界変調により、制御回路の電位が影響を受け、ベースラインが変動するといった問題がある。そのため、磁界変調の影響が少ない、光デバイスを用いたマイクロ波共振器の共振周波数チューニング法を開発した。光ファイバーを介して、離れた場所にあるLEDの光強度により、共振器に結合されたループに接続された光導電セルのインピーダンスを制御し、共振周波数を調整する手法である。この手法が、電子スピン共鳴スペクトロスコピーの安定性向上に役立つ実験的結果を得た。余分なエネルギーを消費してしまうため、感度向上には更なる検討が必要ではあるが、磁界変調に影響されないチューニング回路を実現した。
|