研究概要 |
圧電結晶を伝搬する弾性波は,ひずみと圧電ポテンシャル(静電ポテンシャル)が結合して伝搬する波動である.弾性波の中で,結晶表面を伝搬する弾性表面波の場合,発生した圧電ポテンシャルは,表面と接する媒質中に侵入する.侵入したポテンシャルは,媒質の複素誘電率によりその分布の大きさが変わる.その結果,表面波の速度や振幅が変化するため,これらの変化量を検出することにより,複素誘電率を知ることができる.本年度の研究では,測定対象をミネラルウォータおよび各種天然塩とした.ミネラルウォータに関しては,ボトル内でミネラル成分が分離していることを,開発した自動液体計測装置を用いることにより見出した.分離している現象は,市販の装置,例えば導電率計,では確認することができなかった.つまり,過渡応答に物質の情報が現れる本装置を用いることにより,不均一分布に起因する複素誘電率の差として検出することができた.次に,試料として,NaCl食塩,ならびに市販されている各種天然塩を用いた.NaCl,食塩と異なり,天然塩には"にがり"と呼ばれるミネラル成分が多く含まれている.これはマグネシウムやカルシウムなどである.そこで,希薄な水溶液から生理食塩水の濃度まで変化させて測定を行った.その結果,含まれているミネラルによる試料の違いが過渡応答に現れた.解析した液体自動計測装置には,液体中に含まれる物質を検出するための識別用膜は一切使用していない.センサ部分である弾性表面波のポテンシャルと液体に含まれる物質の相互作用が検出メカニズムである.このため,過渡応答波形から物質を効率よく識別するために,流速,フローセルの構造およびセンサ周波数を最適化する必要がある.さらに,申請者らが開発した"自己較正型レシオメトリック法"により,含有物質の濃度および種類の推定を行っていく.
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