視覚認知過程を実現するための脳内における知覚表象について解析するために、人間が三次元立体の対象物を判別する際の「視点依存性」に注目し、視覚計算論的アプローチにより考察を行なった。昨年度構築した視覚認知モデルにおいて、トップダウン的に与えられていたパラメータに対する検討事項の一つとして、物体群による刺激画像呈示条件の影響の相違を表現できる「対象物中心座標の知覚表象」による処理過程に注目し、そのメカニズムを詳細に解析することを試みた。心理物理実験では、被験者に対して二枚の景観画像を連続して瞬間的に呈示した後にそれらが同じ物体の景観であったか否かを、正確かつできるだけ速く回答するように教示した。ここで、同じ物体の景観が二枚呈示された場合でも、二枚目の景観は一枚目の景観と視点が異なっている可能性がある。二つの景観の視点差に伴う認識コスト増加の度合いを「視点依存性の強さ」として定義した。二枚の刺激画像の呈示時間間隔(ISI)を0から1000ミリ秒まで変化させたとき、物体を構成する基本立体パーツ数が1個の場合には、視点依存性の強さはISIの長さに応じて減少した。しかしながら、パーツ数が3の場合には、ISIが増加しても、視点依存性の強さに影響を与えることはなかった。こうした結果は、3個以上のパーツから構成されるような物体は、「対象物中心座標の知覚表象」による処理過程では正確に処理できないことを示唆している。こうして得られた知見を数理モデルに組み込むことで、昨年度のモデルでは説明が困難であった物体群に依存したパラメータを除くことができると共に、過去の心理物理実験をさらによく表現できることを示した。
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