研究概要 |
ヒトの把持運動における計算問題である指先力決定および手姿勢決定は脳内に獲得された把持対象物の内部表現に基づいて相互に関連して解かれているという仮説の妥当性を検証した.心理物理実験では,3軸力センサ,CyberGlove, FASTRAKを組合せ,拇指,示指,中指による物体保持タスクにおける指先力,把持位置,手姿勢を同時に計測できる装置を構築し,それぞれの関係を調べた.その結果,手姿勢と指先力は密接に関係しており,その関係には手指の筋骨格構造の違いに起因する個人差が見られた.また,被験者は実際に指先力と手姿勢の多くの組合せで保持タスクを遂行できたが,自然な保持タスクにおいてはある特定の組合せを選択した.シミュレーションでは,被験者の運動生成の戦略を説明するために,与えられた手姿勢に対して最適な指先力を計算するモジュールと与えられた指先力に対して最適な手姿勢を計算するモジュールから成る最適化モデルを構築した.前者のモジュールは心理物理実験における自然な保持タスク以外のタスクから得られた指先力と手姿勢の統計的な関係を目的関数に持ち,後者は各指関節トルクを最小にする戦略を採り,相互に入出力情報をやり取りすることで互いが拘束条件となる.このモデルは自然な保持タスクに関する情報を持っていないにもかかわらず,自然な保持タスクと同様な指先力と手姿勢を出力した.この結果から対象物の内部表現が物体と運動情報のステレオタイプなマッチングを表現しているのではなく,運動情報をある目的関数に基づいて計算するための感覚運動変換を表現していることを示唆する.これまでに指先力と手姿勢の相互作用を考慮して,そのどちらも再現した最適化モデルは報告されておらず,このモデルはこの分野において有力なモデルとなると確信する.この研究成果は2003年6月の国際会議ICANN/ICONIP 2003,10月の生体・生理工学シンポジウム,2004年3月のニューロコンピューティング研究会において発表された.
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