本研究の目的は、開ループ振動安定化制御によって、電磁リニアマイクロアクチュエータに発生するsnap-through(pull-in)現象を回避し、可動範囲を大幅に拡張できることを試作アクチュエータにより実証することにある。現在までに得られている成果は下記の通り。 (1)Two wire systemの実験機の製作とSnap-through領域内における安定化実験 電磁アクチュエータの最も簡単なモデルとして、2本の平行な導線の一方を固定し、他方を真鍮の柔らかい梁によって支持した装置を製作した。導線の平行部の長さは400mm、導線間の空隙は約6mmである。位置計測はデジタルカメラとレーザ変位センサによって約10μmの精度で計測した(制御には用いていない)。同方向に直流電流を流すと電磁力によって空隙が減少し、初期位置の半分の約3mmで理論通りsnap-throughが発生することを確認された。平均化ポテンシャル関数に基づく開ループ振動制御入力を設計して実験機に適用したところ、可動範囲が1.5倍に広がり、snap-through領域内で安定化が可能である事が実証された。 (2)永久磁石型の実験機の製作・モデル構築・Snap-through領域内における安定化実験 実用的な永久磁石を用いた電磁リニアアクチュエータでも開ループ振動安定化制御が有効であることを示すため、ネオジウムとコイルを用いた梁型のリニアアクチュエータを製作した。無電流時の空隙を15mmとして直流電流によって開ループ位置制御を行うと、空隙が約10mm以下でsnap-throughすることを確認した。有限要素法によってモデルを作成し、さらに電磁力の数値計算結果を多項式補間した数式モデルによって平均化ポテンシャル関数を導出し、開ループ振動制御入力を計算して実験機に適用したところ、可動範囲が約2.4倍になり、位置決め誤差も最大で約50μmに抑えられることを確認した。以上から、開ループ振動制御が実用的な永久磁石を用いた梁型電磁リニアアクチュエータの位置決め制御にも有効であることが実証された。 現在は、それぞれの成果をまとめた論文をそれぞれ投稿準備中であり、また、μmスケールのMEMSアクチュエータをMEMS設計用ソフトで設計・解析中である。
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