研究概要 |
本研究課題では、化学プラントなどのプロセス制御系に多く存在する非線形時変システムを制御対象としている。プロセス制御系で現在主流となっている制御方式はPID制御法であり、1次遅れ系などの線形モデルを用いてモデリングを行い、PIDパラメータを設計する方法が現場において広く用いられている。そこで、本研究課題においても、プロセス制御系への実用化を考慮し、PID制御方式を採用することとした。ここで、現場で用いられているように、非線形特性をもつシステムに対して,線形モデルを用いて同定を行った場合、その非線形特性を十分に表現することができない。そこで、本研究では線形モデルのパラメータを時変であるものとして、これをニューラルネットワークを用いて同定する方法を用いた。まず、線形の同定モデルを用意し、これに含まれる特性パラメータをニューラルネットワークを用いて推定する。次に,従来より用いられている線形モデルに基づいたPIDパラメータ調整法によって、ニューラルネットワークによって得られた推定パラメータからPIDパラメータを調整する。本手法によると、システムの入出力信号によって推定パラメータが変化し、これに応じたPIDパラメータが計算されるため、非線形特性に対応したPID制御系を構成することができる。 これまでにも、ニューラルネットワークを用いてPID制御系を構築する方法はいくつか提案されているが、その多くはニューラルネットワークから直接PIDパラメータが出力される方式であるため、制御対象の特性が分かりにくく、また、ニューラルネットワークの学習にシステムヤコビアンの情報を必要とするため、実用化が難しいという問題があった。本研究によると、制御対象の特性パラメータを学習する方法であるため、システムヤコビアンの情報が不要であるという長所を確認できた。 得られた同定モデルからPIDパラメータを計算する方法については、まず、Chainらによって提案された方法に基づいた計算法を用いた。この結果については、SICE Annual Conference 2002において、「A Design of Nonlinear PID Control Systems with a Neural-Net Based System : Estimator」と言う題目で発表を行った。次に、一般化最小分散制御法に基づいた方法を用いた結果を電気学会・産業計測制御研究会において「ニューロ推定器を用いた非線形PID制御系の設計」の題目で発表した。その後、実際の温度制御実験装置のデータを用いて第3回適応学習制御シンポジウム資料(計測自動制御学会)において「ニューロ推定器を用いた非線形PID制御系の設計とその応用」の題目で発表した。
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