研究概要 |
一般に,交通プロジェクト実施による所要時間の短縮がごく僅かな場合には,利用者にはその差が十分知覚されない可能性がある.そこで,人はどの程度の消費時間の差ならば,それを有効な差であると知覚し,異なる選択行動をとるようになるかという時間に対する意識の限界を知る必要があると考えられる. そこで今年度は,鉄道通勤利用者の自宅出発時刻選択行動を,駅での到着時刻観測データと,同時に実施したアンケート調査による通勤者の外生的時刻制約条件のデータとを用いて分析し,知覚可能な時間差の限界値を求めた. 分析にあたって,まず人間の行動原理として効用最大化を想定し,ランダム効用を仮定した.ここで,効用は,駅での列車待ち時間とスケジユール遅延または早着によって発生するコストから構成されると考えた.そして,列車運行頻度がある一定値より高いときには,通勤者が列車の待ち時間を知覚できないものと考える.このときには,時刻選択行動の際,人は駅での待ち時間を意識していないと見なせるであろう.このことは待ち時間に関するパラメータが統計的に有意であるか否かの検定によって判定可能である.そこで,待ち時間のパラメータの有意度によって,待ち時間に対する意識限界を分析することとした. データ収集のため,首都圏の14の通勤鉄道駅を対象に,通勤者の駅到着時刻を観測した.また同時に駅到着者の一部に対して郵送回収方式のアンケート調査票を配布し,各通勤者の行動の前提となる諸条件(利用目的,鉄道利用総所要時間,アクセス・イグレス所要時間,始業時刻,最終不遅刻列車,乗車希望列車など)の情報を入手した.以上のデータを用い,通勤者が列車待ち時間を意識しているか否かを列車待ち時間のパラメータの統計的な有意性から判定した結果,駅における平均列車運行時隔が4分30秒〜4分56秒程度が待ち時間意識限界であることが分かった.
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