研究概要 |
大都市の鉄道駅周辺における放置自転車の発生は,駅前交通の錯綜,緊急時の交通障害,駅前景観の破壊等の社会問題を引き起こしており,放置自転車削減への社会的要請は強い.これを受け,各自治体は駐輪場整備やキャンペーン等を行っている.しかし,このような努力にも関わらず,放置自転車の状況はなかなか改善されていない. このような膠着状況が生じている理由の一つとして,放置自転車問題が典型的な社会的ジレンマ問題であることが考えられよう.すなわち,「周囲の人間が路上駐輪しているから,自分もそれに同調しよう」という心理,すなわち,社会的相互作用が強く影響した結果,個人としては路上駐輪する方が得策であるものの,だからといって全員が路上駐輪すると,全員が駐輪場を利用するときよりも状況は悪くなるという状況が生じてそこから脱却できないという,社会心理学で云われる欠陥均衡状態にロック・インしているためであると考えることができる. 上記のような問題に対する解決策を見出すために,本研究では,社会的相互作用を内生的に考慮可能な離散型の選択モデルを構築し,違法駐輪問題を例として,社会的ジレンマ状況を改善するための政策介入の方法に関する実証的考察を行った.多くの選択行動モデルの理論的基礎であるミクロ計量経済学においては,近年,社会的相互作用を明示的に考慮した実証分析が精力的に行われている.とりわけ,教育,犯罪,失業等の事例を対象に,相互作用の影響を実際に計測することを目的とした分析が試行されており,相互作用の内生性やパラメータの識別可能性等に対する配慮を行っている事例も多い.本研究においても,社会的相互作用を選択行動モデルのフレームに導入し,どのような相互作用が生じているのかを実証的に考察している.
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