研究概要 |
社会的要請から,社会資本整備の便益評価は,多くのプロジェクトで実施されるようになってきている.また,詳細な効果の帰着先を知る目的で,ミクロ行動理論に基づいた応用一般均衡分析による便益評価手法(帰着便益評価手法)が実施されるようになってきており,従来の需要予測に基づく消費者余剰による便益評価手法(発生便益評価手法)に変わろうとしている.しかし,応用一般均衡分析は,そのモデル構造が複雑なため,特定のパラメータの誤差が,最終的な便益評価にどれほど影響するかが明確でない.そのため,本研究では応用一般均衡モデルにおける誤差の整理とその便益評価に対する影響分析を実施することを目的としている.文献調査などの結果から,応用一般均衡モデルには以下のような3種類の誤差があると考えられる. 1)設定パラメータに含まれる誤差(例えば,代替弾力性パラメータの推定) 2)外性変数に含まれる誤差(例えば,政策変数の推定) 3)基準データセットに含まれる誤差(例えば,産業連関表の集計誤差) 本年度は,上記の誤差のうちで1),2)に関するモデル構築と実証研究を通じた推定誤差の範囲を特定し,最も重要なパラメータの特定化を行っている.その結果は,「社会資本ストック整備効果計測に関する研究-生産関数アプローチと応用一般均衡分析による理論的・実証的比較-」(土木計画学論文集No.19),「社会資本ストック崩壊による経済的被害の空間的把握-空間的応用一般均衡分析による計量厚生分析-」(大阪大学経済学部Working Paper Series)にて公表済みである.次年度以降,3)の問題可決と共に,ある社会資本整備の評価を実施する場合にどのパラメータの精度に注意をすべきか,また,その場合の感度分析の指針を含めたマニュアル的な報告書をまとめる予定である.その結果は,便益評価結果の信頼性尺度とし,あるいは,評価モデルの妥当性を知る上で,大変重要であると考えられる.
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