研究概要 |
本研究の目的は,下水処理水再利用による渇水リスクの低減と感染リスクの増大というリスク・トレードオフにより,下水処理水再利用システムの最適化手法を構築することにある。阿武隈川流域を研究フィールドとして,本年度は以下の研究を行った。 1.流量予測と渇水リスクの算定 阿武隈川中流域の福島市における渇水リスクを算定するため,水道原水取水点付近の流量を予測する手法を開発した。まず,同地点における過去20年分の流量データから,連続する二日間の流量の同時発生確率を記述する確率マトリクスを作成した。流量の季節変動を考慮するため,マトリクスは各月毎に作成した。また,流量変動の連続性を再現するため,流量が上昇傾向にある場合と下降傾向にある場合で,別々のマトリクスを用意した。合計24個の確率マトリクスを用いることで,毎日の流量を予測することが可能となった.予測された流量から,福島市における渇水被害(累加不足率[%・day]で定義)を評価することができた。 2.下水処理水再利用による感染リスク評価 項目1で予測された流量をもとにして,取水点付近の流量が少ない場合には下水処理水を水道原水の一部として再利用するシナリオを設定した。このシナリオのもと,ポリオウイルスを例に感染リスク評価を行った。その結果,塩素消毒前の処理水を再利用する場合には,渇水被害を900%・dayから1400%・dayまで低減させるとき,感染リスクは約10倍に上昇した(トレードオフ)。塩素消毒を施した処理水を再利用する場合には,感染リスクの上昇を避けることは可能であった。ただし,この場合,消毒副生成物によるリスク(特に発ガンのリスク)の増大に配慮する必要がある。 次年度は,渇水リスクと感染リスクのトレードオフに,さらに消毒副生成物のリスクも考慮に入れて,総合的な健康リスクにもとづいた下水処理水再利用システムの最適化手法を構築する予定である。
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