住宅販売の現場では実大のモデルルームを別途仮設的に設置し、それを顧客に体験させて販売促進に用いることが一般的であるが、この設置に伴う諸経費は住宅価格を引き上げる一因にもなっている。一方、今日、VR技術が発達してきており、CG等により3次元空間を提示することが可能となってきたが、実空間で人が体験し、知覚する情報の全てをVR技術で提供するまでには至っていない。 そこで、VR技術でモデルルームを代替する際の知見とするため、様々な提示手段によって人が住宅空間から得る情報や下す判断について、空間の体験方法の違いによる差を見出すための実験を実施した。実験は実際のモデルハウスの居間空間6室を対象とし、住宅購入の際に主たる意思決定者となることの多い30〜50歳台の女性65名を被験者とした。空間の体験方法としては「間取り図とその説明文」「間取り図とその説明文と写真」「モデルハウスの実空間とその説明図」の3種を設定した。被験者から得る情報としては、アンケート形式の自由記述法として、対象とする居間空間の好ましい点と好ましくない点について挙げさせ、さらにその理由についても答えさせた。 自由記述の結果をテキストマイニングにより処理した結果、被験者が対象とする空間に対して下す記述の語彙数については、実空間体験をするほうが図面のみに比べて多くなり、被験者間のばらつきも実空間のほうが増加した。また、語彙内容については、空間構成や動き、家族についての記述は「間取り図とその説明文」で多く、特定の部屋や行為については「間取り図とその説明文と写真」で多く、家具や建築部位や色彩については「モデルハウスの実空間とその説明図」で多くなることが判明した。
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