大講義室に模擬舞台を製作し、座席の位置(手話者からの距離)、背景の条件(スクリーン&暗幕)、照度など種々の条件の組み合わせた手話の見やすさ評価の実験を行った。手話者を照らす胸の位置での鉛直面照度を6条件で行った。服の色の選択する際には、手の形がはっきりとわかりやすいことを考慮した。背景は大講義室に備えついている黒色の暗幕と白色のスクリーンを用いた。被験者は18名の聴覚障害者(手話歴4年〜52年)と4名の手話通訳歴のある健聴者(手話歴2年〜7年)である。 手話の見やすさ評価値と視距離との関係:いずれの照度においても、後部座席に行く(手話者と被験者の視距離が長くなる)ほど評価値は下がる。同じ座席であっても、鉛直面照度が異なると評価値は異なる。手話の見やすさは手話者位置での鉛直面照度が低照度ほど視距離の影響を受けることがわかる。 手話の見やすさ評価値と鉛直面照度との関係:鉛直面照度が111lxを超えるとその傾向は鈍化している。各座席共その様子は同様である。鉛直面照度が333lx以上の場合、何れの座席位置(ただし、視距離が最大14.1m)でも手話の見やすさ評価は「見やすい」かそれに近い状況であるが、12.3以下の低い照度では例え視距離が近くても「見やすい」状態にはならないことがわかる。 見えにくい体の部分の評価:「A:手・指の形」、「B:手・腕の動き」が多く選ばれると予想されたが、意外にも「C:顔の表情」「D:口の動き」の方が多く選ばれた。手話を見る場合には、手話の際の手の形・動き以上に顔や口の動きが重視されていることがわかった。 今後は、手話者からの距離に関して「見やすい」「見えにくい見えにくい」の境界線を探していく必要がある。今回の実験条件で言えば、D席でどの位の照度を確保しておけば、「見やすい」という評価になるのかを考える必要がある。
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