本研究は、人が曲折する経路を移動する際の身体方位感覚に着目し、それが自身の身体運動感覚と外部から得られる環境情報の両者に依存するものとして捉え、経路の曲折数・曲折角度や外部の環境情報のあり方による影響について、実寸大の実験経路を用いて明らかにすることを目的とする。 本年度は、異なる角度からなる複数の曲折を移動する際の影響について明らかにすることを目的とし、本大学の敷地内に7〜8の曲折を持つ実験用の経路を製作した。経路は床、壁、天井をブルーシートで覆い外部が見えず、経路外部からの環境情報は得られないものとした。この経路において被験者を用いた方向指示実験を行った。被験者は、経路入り口において進行方向を「北の方角」として教示された後、曲折のある経路を通りその出口において、方向指示板によって入り口で教示された「北の方角」を指示する。この実験は経路途中の曲折の回数、角度(20°、45°、90°、120°)および左右の組み合わせ(ジグザグタイプ、回り込みタイプ)を変えて数回行った。 被験者の指示した方向のずれの大きさの分析から、複数回の曲折の移動によって生じる方向把握の誤差は、単一曲折の誤差の累積によっては説明されず、必ずしも曲折を重ねることによって誤差が直線的に増大する訳ではないこと、曲折の回転方向の組み合わせと誤差の大きさには明確な関係が見られないことなどが明らかになった。
|