日本建築学会図書館所蔵の近代化遺産報告書により、西日本において6県(長崎、熊本、大分、福岡、山口、広島)38件の鉱工業系企業の報告を確認できた。そのうち、社宅街の成立あるいは現況についてふれているのはわずか9件であった。これは近代化遺産の一部として企業社宅街が認知されていないことを物語っている。 本年度は、まず、北海道における「企業城下町」といわれる室蘭市および苦小牧市における3企業(日本製鋼所室蘭製作所、新日本製鉄室蘭製鉄所、王子製紙苫小牧工場)について、各企業所蔵の社宅関連史料を収集するとともに、市街化と社宅街形成との関連について考察を加えた。同時に職階級ヒエラルキーが各社宅街内で配置計画、住戸の平面計画にどのような影響を与えたかについても考察した。室蘭市における2企業については、市域内で広大な面積を社宅街が占めるものの分散立地し、さらに中心市街地は別に形成されており、都市基盤も企業のそれに依存することなく都市活動が行われている。一方、苫小牧王子製紙は、工場を取り囲むように社宅街が形成され、工場を城郭に見立てると、まさに城下町といえる。さらに鉄道駅前に発展する市街地は元来社宅街として形成されたものであり、各種都市基盤が王子製紙に全てを依拠している点からも、室蘭とは異なった社宅街構成であると指摘できる。 ついで、西日本において、精錬工場系企業2ヶ所の現地視察ならびに資料収集を行なった。香川県直島町の三菱マテリアルと、新居浜市の住友化学工場である。いずれも財閥系の企業であり、次年度以降、三井系の精錬工場への現地視察および資料収集を終えた後、比較考察を行なう予定である。 一般の企業社宅街では、職階級による住み分けが行なわれているが、直島では、一住区があたかも一つの課を形成するような、職階級混在型の居住構成をみることができた。今後社内報などにより、生活システムとの関連を考察したい。
|