本研究当初より調査対象地区としてきた、香川県直島町の三菱マテリアル社宅について、特に傾斜地に立地する社宅街-鷲の松社宅とヘキ社宅-の2カ所について、敷地断面ならびに配置の実測を行なった。社宅は、会社を主体とする住宅地開発であり、そこには資本的バイアスのかからない、純粋な立地条件を拠り所とする居住システムを見ることができる。 鷲の松地区においては、先発の社宅は工場に近いところから上級の役員が居住し、かつ高位に上級役員の住居が配置されている。後発の居住地区は、職級の低い役員に与えられ、これらは傾斜地としても低位にあたる。すなわち、複数の職級が混在する地区において、住戸の配置を決定するのは、工場への距離ならびに土地の高低差であることが、当該社宅地区において明らかとなった。また職工を対象としたヘキ社宅においては、土地の高低差や工場への距離は住戸配置には影響を与えず、グリッドにしたがった配置計画となっていた。そのため、浴場等共同施設へのアクセスの利便性を図るため、主要街路以外に法面にも階段をもうけていた。 この考察と並行して、北海道内の鉱業系社宅街の居住傾向についても考察した。空知地方における炭礦住宅地であるが、産炭地は複数企業が同時に開発に入り、かつ谷間の立地という条件から住宅地としての余裕がなく、必然的に傾斜地に高密度に社宅街が開発された。職工地区では、先のヘキ社宅と同様、グリッドにしたがって配置された。 一概に社宅街といっても、工業系と鉱業系では職階級の差異、立地など根本的に正確を異にする点が多数存在する。工業系だけでも職種によっても居住者の階層が異なる。さらに開発年代によっても、社宅開発への意図が異なるなどのことが改めて明らかとなった。社宅開発は、非都市域における、日本での住宅地開発の一事例である。今後さらなる事例の収集が望まれる。
|