本研究は、街路や地割を基本要素として構成されている「都市組織」の変遷を手がかりに、歴史都市パリにおいて空間構造が織り重なっていく過程を、事例に即して実証的に明らかにすることを目指している。こうした考察を通じて、「既存の都市組織を如何にして把握し、そこにどのようにして新しい空間を創造していくか?」という今日的課題に対し、「都市再開発史」という観点から有益な知見を導きたいというのがその問題意識である。平成14年度には、特にパリ市歴史中心地区にあたる第I区と第II区に位置する「レオミュール通り」という一本の街路開設事業を取上げ、そこで実施されたオスマンの道路開設事業の実例を、主に「土地収用」と「土地区画分譲」の二側面に沿って実証的分析を行った。そこでは、オスマン型道路開設事業を基盤としてポスト・オスマン型の都市景観が「ファサード・コンクール」や建築規制緩和を通じてパリ市によって誘導的に形成されていく過程が解明された。平成15年度には、オスマンのパリ大改造、とりわけ道路開設事業を「近代都市」成立過程の一端として捉え、その意義を明らかにすべく分析を行った。その結果、特筆すべき二つの重要な社会変革:<フランス革命を通じたパッサージュ・クヴェールの誕生>と<オスマンによるパリ大改造を通じた街路開設事業>が都市組織の変遷において対照的である一方、近代経済活動の著しい発展が都市空間構造に色濃く反映されている点においては共通していることが明らかとなった。次年度は、他のオスマン型道路開設事業の分析も行い、これまでの結果を検証していく予定である。なお、H15年度に得られたこうした成果は、日本建築学会歴史・意匠委員会都市史小委員会シンポジウムにおいて研究発表し、冊子化され公表された。
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