研究概要 |
ルチル型酸化物の薄膜(VO_2/TiO_2基板)作製に取り組んでいる際に、遷移金属酸化物薄膜へ効率的でチューナブルに光キャリア注入する手法を発見した。遷移酸化物薄膜をn型のチタン酸化物基板上に作製し、これに紫外線を照射するという簡単な手法である。この時基板で生成された正孔-電子対のうち、正孔のみ選択的に薄膜に注入される。この光キャリア注入法を用いてこれまでに、絶縁体あるいは半導体的振る舞いを示す酸化物、VO_2, CaCuO_2, (LaSr)MnO_3の電気抵抗を大きく(数桁)減少させることに成功した。ごく最近では、高温銅酸化物超伝導体の代表物質、YBa_2Cu_3O_<7-x>への光照射により、超伝導転移温度を上昇させることにも成功した。変化は光照射に対し可逆であり、超伝導-常伝導状態の光スイッチが可能となっている。このような光による可逆的な超伝導転移温度の変化は初めての例である。現在、発見した光キャリア注入法のメカニズムを調べている。メカニズムの理解により、より多くのキャリア注入、よってより大きな物性変化の可能性を知ることが出来る。また、この方法は、化学置換法では避けられない結晶構造乱れや不均一性の問題を含まない、クリーンなキャリアドーピング法である。化学置換法では見られなかった、新たな物性の出現が期待できる。紫外線のみに敏感に応答する性質があるので、最近では紫外線センサーとしてデバイスへの応用することも検討している。また、スピノーダル分解が生じるVO_2-TiO_2系への光キャリア注入も興味深い。
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