本研究では、平成14年度、15年度の2年にわたって中性子散乱測定を主に用いてプロトン導電性酸化物BaCe_<1-x>Y_xO_<3-δ>の導電機構解明を行う。本年度は最も導電性の大きいBaCe_<0.8>Y_<0.2>O_<3-δ>の組成について注目し、申請者自ら米国アルゴンヌ国立研究所に赴き、この組成試料について各種中性子散乱測定を行った。 1.温度および雰囲気による結晶構造パラメータと導電率の変化 アルゴンヌ国立研究所Intense Pulsed Neutron Source Division (IPNS)のGeneral Purpose Powder Diffractometer(GPPD)を用い、温度および雰囲気を変えBaCe_<0.8>Y_<0.2>O_<3-δ>の回折測定を行った。得られた結果をリートベルト解析し、温度およびガス雰囲気による結晶構造パラメータの変化を観察した。一方で、交流インピーダンス測定装置を用い、温度および雰囲気による酸化物の導電率の変化を得た。これらの結果から、結晶構造パラメータと導電率の間に相関関係があることを見いだした。 2.Pair Distribution Function Methodによる解析用データの収集 GPPDを用い、BaCe_<0.8>Y_<0.2>O_<3-δ>の試料の測定を行った。通常の回折測定の4倍の数の検出器を用い、測定時間を2倍にすることで、Pair Distribution Function(PDF)法を用いた解析にも十分対応できる高い統計精度の回折結果を得ることができた。解析は来年度に行う予定である。 3.準弾性中性子散乱測定 IPNSのQuasi Elastic Neutron Scatter(QENS)を用い、温度および雰囲気を変えBaCe_<0.8>Y_<0.2>O_<3-δ>の準弾性散乱測定を行った。この測定から、回折測定で得られた構造相転移温度でプロトンの拡散係数が大きく変化することを見いだした。 以上1〜3より、温度や雰囲気による結晶構造の変化がプロトンの拡散速度に大きな影響を及ぼすことが分かり、結晶構造が導電率に大きく寄与していることが明らかとなった。 来年度は、非弾性中性子散乱測定を行い、今年度の回折測定および準弾性散乱測定の結果と併せ解析し、BaCe_<1-x>Y_xO_<3-δ>のプロトン導電機構を明らかにすることを試みる。
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