まず圧縮試験装置で微小荷重の変化をリアルタイム測定するため、PCカード型データ収集装置と高応答シグナルコンディショナを導入した。また高倍率観察を可能にするため、デジタルマイクロスコープ下で装置を動作させるよう改良した。この結果SEMの中で行っていた試験を空気中で行えるようになり、試験時間が大幅に短縮された。 これらの改良を行った後、各種PAN系炭素繊維について試験片を多数作製して圧縮試験を行い、ばらつきの評価を含めた強度特性と破壊挙動を検討した。その結果炭素繊維の圧縮特性は黒鉛化処理温度の上昇とともに低下し、破壊挙動も低応力下での結晶破壊を伴うものに変化することがわかった。これらの結果をX線回折により得た繊維の結晶寸法、結晶不規則領域、気孔寸法、および配向角と比較することにより、炭素繊維の圧縮強度は黒鉛化処理時に生じる繊維表層付近の針状気孔と関係していることが確認できた。 炭素繊維の圧縮破壊機構をさらに詳細に検討するため、デジタルマイクロスコープに高速ビデオカメラを接続し、炭素繊維の瞬間的な圧縮破壊挙動を観察することを試みた。そのため各種高速ビデオカメラを試用して機器選定を行ったが、予算範囲内で所要の性能を持つ機器を得ることができなかった。そこで備品予算でピエゾステージと微小荷重用ロードセルを購入し、測定精度をさらに向上させる方針に変更した。これまで試験装置の駆動部はモータと送りねじによる機構でバックラッシ誤差があったが、ピエゾステージを用いることで位置決めの再現性が得られ、炭素繊維のひずみおよび弾性率も直接測定できると考えた。またピエゾステージはナノオーダの位置決めが可能であり、将来ナノ材料関連の研究等に幅広く適用できると判断した。次年度はこの試験装置を用い、本年度得た知見をもとに構造を改善した炭素繊維の圧縮試験を行って、圧縮特性改善のための方策を明確に提示することを目指す。
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